書誌情報
対象
60-82歳,24-32歳
研究の種類・調査の方法
介入の方法
アウトカム
図表
概要・結論
加齢により心機能は低下する。特に,左室拡張能が低下し,左室拡張期に血液が充満する量が減少する。加齢による左室拡張期充満量の変動は,収縮異常のないうっ血性心不全患者の35-40%の罹患率に寄与していると言われている。運動は左室拡張能を改善させることが動物やヒトの実験により報告されている。そこで本研究では,若齢および高齢者の6ヶ月間の運動トレーニングにより,安静時および運動時の左室拡張期充満量を改善させるか否かを検討した。若齢者よりも高齢者の方が血圧は増加,安静および運動時の左室の早期左室充満率のピークは低下し,左房充満率のピークは増大していた。トレーニングにより,VO2maxの増加し,心肥大や徐脈が認められた。安静時では,R-R間隔が増大し,拡張期時間も増大した。さらに,安静時および運動時の左室早期左室充満率のピークは若齢および高齢者ともに増大した。トレーニング効果において,高齢者では,左室拡張期充満率は顕著に増大し,左房充満率は低下したが,若齢者ではその変化量は高齢者と比較して小さかった。VO2maxの規定因子として,重回帰分析を行ったところ,最高心拍数,安静時最高早期左室充満率,トレーニング,年齢が有意に関連性があることが示された。これらの結果は,加齢による左室拡張期充満量の低下をトレーニングにより改善した機序として,加齢により増大した左房充満率の低下が関与していると考えられる。
健常な若齢者と比較して高齢者は安静時および運動時の早期拡張時充満量は低下しているが,持久的なトレーニング行うことによって改善した。従って,左室拡張期の血液充満量は安静時あるいは運動時の一回拍出量,心拍出量,VO2maxを規定する重要なファクターであるかもしれない。
本研究は、若齢者および高齢者ともに持久系トレーニングを行うと左室拡張期血液充満量は増大し,加齢による心機能低下を改善させる機序に重要な要因となるという高齢者に対して運動効果の機序を説明する上での重要なエビデンスとなりえる。
前田清司